2004年2月27日金曜日

佐治川石の鑑賞

現在の水石界は盆栽界と姉妹関係にあるとはいえ、一応別ジャンルとされています

最近、そうですね、およそこの30年くらいの間に
業界も区別がより明確になってきて、水石界が次第に独立してきたといえます

それ以前は、ほとんどの盆栽屋が水石を扱っていましたが、今ではごく少数派になりました
水石を主に扱う盆栽屋の中には、水石専門の業者となる人も出現してきたからです

ところで、二つの業界にはちょっと面白い傾向があります

お話したように、盆栽屋の中で水石を商う業者は少数派ですが、います
また、盆栽屋のほとんどが水石に興味があります

商品としての水石は扱わなくとも、個人の趣味や飾りの必要性から
水石を一つも持たない盆栽屋はいないのです

ところが、水石専門業者で盆栽を扱う人はほとんど皆無ですし
趣味的にでも盆栽を持っている人もほとんど見たことがありません

ことの是非でなく、傾向として、非常に興味のあることです
この要因はいろいろに考えられますが、その話題はまたの機会にしましょう

さて佐治川の遠山石の鑑賞です


佐治川遠山石 (Sajigawa-ishi) 間口40×奥行15×高さ5.5cm

穏やかな頂をもった遠山石
頂からなだらかな山々が連なり、末端はいつしか中央の盆地からせりあがった平野へ溶けこんでいます
日本各地に見られる穏やかな風景です

佐治川石独特の石の目が大地の起伏を表し、景観は非常にデリケートです
持ち込みの古さも申し分ありません


石の肌合いもよく見えます
斜めの筋が佐治川石の特徴です


穏やかなふくらみを持った山裾


ここでも斜めの筋が複雑な地形を表現して魅力的です


後ろ姿


中央前面の低い盆地を囲んだ全景がよくわかります


石の底部


これほどに薄型の石の台座が宙に浮かしても外れません
高度な技術、理想の台座です

2004年2月26日木曜日

けやき幹洗い

けやきやもみじ楓など、木肌のツルツルした樹種は
金ブラシや歯ブラシで幹や根張りの水洗いをしてやります

木肌の荒れる性質の樹種はいけませんよ
せっかく荒れた樹皮が取れてしまいます

時期はいつでもいいのですが、休眠期の方が傷をつける心配がありません
生育期には表皮に傷をつけないように注意します

根張りから幹にかけて苔が這い登っているのを見かけることがありますが
あれは見苦しいだけでなく、盆栽の成長が妨げられます

木肌の荒れる樹種の場合はピンセットでていねいに取り除いてやります


けやきの箒作り


金ブラシで水洗い、皮をむかないように気をつけて!


不要の歯ブラシの毛を、少し刈り込んで使います

2004年2月25日水曜日

変な梅

緋梅ということで購入した梅です
左の枝の蕾が先に開きましたので、見ると八重です

”こりゃ失敗した、緋梅じゃないや、お客様のところへいかなくてよかった”
しかし、数日あとに右の小枝の先の蕾が開いてきのを見て、またビックリ

こちらは一重のれっきとした緋梅、頭の方の蕾も大きさからいって一重のようです
”こりゃ変な梅になっちゃった”

梅は気に入った品種をすべての枝に接木し、他の品種にすることが可能で
この技法は「衣更え」といって、専門家の間ではかなり普通のこととして行われています

おそらくかなり以前に、八重であったものを緋梅に「衣更え」したのでしょう
そしてうっかり一枝だけ切り忘れたのだと思います

それにしても変な梅ですね
もったいないけれど、八重の枝は切ります

このままでは品種名を名乗れません


左が八重、右は正真正銘の緋梅


八重咲き


これが緋梅、一重でパッチリ
色彩もいいし花形がきちっとしていて人気があります

2004年2月24日火曜日

水石の鑑賞


与十郎石

広い平野の遥か彼方に山々が連なり
美しい品格のある主峰には控えめに副峰が添っています

主峰の山裾の微妙な変化は山の奥行きの深さを表し
その景観は大きくそしてあくまで静寂です

平野も細かい起伏があり変化にとみ
景観はこれによってもさらなる広がりを感じさせてくれます

主峰と織成す山々の位置もよく
景色は左右へと限りなくのびていきます

さて与十郎石の話です
水石界で与十郎石はあまりにも有名ですが
その作出者であるといわれている与十郎の人物については、ほとんど知られていません
伝説上の人物だと思っている人もいるくらいです

水石界の古老の話によると、与十郎は実在の人物です

加工技術が天才的であることはその作品で知られていますが
原石を探し出す才能にも優れていました

それを併せ備えていたからこそ、彼の天才的技術が生かされ
今日の水石界において高い評価を得ているとさえ言えるのでしょう


この角度から見ると、連山とそれを囲む平野の地形が、実在の山々の鳥瞰図のようです
加えて半世紀以上の年月の時代感がその作品になお深みを与えています


拡大図


拡大図


拡大図


朝日を浴びて輝く連山といった景観を想像できます

2004年2月23日月曜日

黄梅

昨日から今日にかけ春の嵐が吹きまくっています
夜の風の音は特に凄く感じられ、夢うつつに外の盆栽のことを心配していました

こんな日は乾燥するので葉水をかけてやるのが一番です
外はもちろん冬囲いの盆栽にも葉水をかけてやりましょう

春の嵐の中が吹きまくる中、冬囲いの中にビニールの中をのぞくと黄梅が咲いています
黄梅は迎春花とも呼ばれ、もじどおり早春を彩る貴重な盆栽樹種です

盆栽趣味にとって欠かせない要素の季節感
黄梅はまさに春を迎える季節の花です



黄梅が盆栽として昔から愛されてきた理由は
この黄色い可憐な花が一番でしょうが、それだけではありません

丹精によりご覧のように小枝がよくほぐれ
幹肌も渋い灰白色になり古色を帯びてくるなど、盆栽としての捨てがたい雅味があるからです

モクセイ科に属しますが、黄梅と名づけられています
日本人は○○梅という呼び名が好きですね

もっとも、花の大きさや花弁の形や咲く季節、小枝の描く線のようすなど、梅にそっくり
黄梅とはこれ以上ない名前だと思います

培養上の注意点を一言

黄梅は枝の節々から気根(きこん)が出やすい性質を持っています
春から秋の生育期には頭から水をやらない工夫をしましょう
枝葉に水分があると気根が出て枝先がごつくなります

2004年2月22日日曜日

古渡中国鉢

盆栽界では、中国で作られた盆栽鉢を支那鉢(しなばち)と通称していますが
最近では中国鉢と記述するようになっています

明治以後、積極的に中国大陸に進出し属国化政策をとっていた日本では
支那、支那人、支那そば、支那服などという言葉は、あたりまえのように使われていたのでしょう

しかし、現代ではそれが中国や中国人を蔑視する差別用語とされと判断され改められています

同じような理由で、朝鮮ソロと呼ばれていた樹種が岩シデと呼ばれるようになり
国風展の記念帖の記述もそのように改められました

盆栽人の率直な感覚から言うと、中国鉢という呼び方は何か新しいものというイメージがしますね
皆さんだって、支那鉢と呼ぶと、いっぱしの盆栽通になった気がしませんか

これ以上踏み込むとテーマが重くなってしまいます
以後は古くとも新しくとも中国で作られた鉢は、すべて中国鉢と呼んでいきます

制作年代は、従来のように新渡(しんとう)、中渡(なかわたり)、古渡(こわたり)
などの呼称をつけて区別するようにします


古渡絵紫泥外縁隅入額入二段切足長方樹盆
(こわたり・えしでい・そとえん・すみいり・がくいり・にだんきりあし・ちょうほう・じゅぼん)7

盆栽界の通例で、古渡りとは明治前期以前に制作されたと考えられる作品です
中渡はそれ以後から終戦まで、終戦以後の輸入品は新渡と呼ばれます

昭和後期から平成になっての輸入品は、新々渡(しんしんとう)と呼ばれています
もちろん、これはおおざっぱな区切りであることには違いありません


二段切足
ただの平足と違って二段になっています


隅入
角をへこましてあります、これを隅入り型と呼びます


額入
胴に額を切ってへこましてあります
額入りには入額(いりがく)と出額(でがく)があります

この場合はへこんでいるので入額です


日本独自のお家芸のように考えられている盆栽や盆栽鉢ですが
そのルーツは古代の中国にあります

中国鉢の勉強をすることによって、より多くのことがわかってきます
今日はこのくらいです、おいおいに勉強していきましょう

2004年2月17日火曜日

湧泉と与平

盆栽界の絵付け鉢鉢の最高峰に君臨する月之輪湧泉
かたや京都の名門五代目清風与平、この二人は格別に親しい関係にあったようです

清風家は江戸時代から続く京焼の名門で、特に三代目は名工の誉れ高く
明治26年には帝国技芸員に任命されています

戦後の混乱期に家運が傾いたおり、五代目は湧泉の援助により
一時は去った陶芸の道に復帰したと聞いています

与平が湧泉の工房の一室を借り制作したともいわれていますが
これは二人の関係を美化する言い伝えではなく、事実であったようです

したがって、湧泉のボディーに与平が絵付けをした作品は
運命的なその出会いによって誕生したものなのです

これらの作品は二人の名工の友情物語と共に
盆栽界の歴史的な遺産となって末永く世に残ります


月之輪湧泉・清風与平合作鉢・染付輪花縁三面額入丸型樹盆(そめつけ・りんかえん・さんめんがくいり・まるがたじゅぼん)

湧泉の制作したボディーに、五代与平が三方に額を切りそれぞれ異なった山水画を描いています
与平の巧みな絵付けが、ロクロ作りの薄手の端正なボディー、やわらかい花形の縁の形と調和し
独特の雰囲気をもった作品となっています






柔らか味をおびた縁の形、湧泉の感性が光ります
一見おとなしい縁のかたちですが、ロクロ技術に加えバランスの取り方が非常に技術を要します


落款は月之輪湧泉造と釘彫り
清風与平の落款は絵の中に溶け込ませたように清風画とあります
与平の独特の手法です


月之輪


湧泉造


右から清風画

湧泉と与平

盆栽界の絵付け鉢鉢の最高峰に君臨する月之輪湧泉
かたや京都の名門五代目清風与平、この二人は格別に親しい関係にあったようです

清風家は江戸時代から続く京焼の名門で、特に三代目は名工の誉れ高く
明治26年には帝国技芸員に任命されています

戦後の混乱期に家運が傾いたおり、五代目は湧泉の援助により
一時は去った陶芸の道に復帰したと聞いています

与平が湧泉の工房の一室を借り制作したともいわれていますが
これは二人の関係を美化する言い伝えではなく、事実であったようです

したがって、湧泉のボディーに与平が絵付けをした作品は
運命的なその出会いによって誕生したものなのです

これらの作品は二人の名工の友情物語と共に
盆栽界の歴史的な遺産となって末永く世に残ります


月之輪湧泉・清風与平合作鉢・染付輪花縁三面額入丸型樹盆(そめつけ・りんかえん・さんめんがくいり・まるがたじゅぼん)

湧泉の制作したボディーに、五代与平が三方に額を切りそれぞれ異なった山水画を描いています
与平の巧みな絵付けが、ロクロ作りの薄手の端正なボディー、やわらかい花形の縁の形と調和し
独特の雰囲気をもった作品となっています






柔らか味をおびた縁の形、湧泉の感性が光ります
一見おとなしい縁のかたちですが、ロクロ技術に加えバランスの取り方が非常に技術を要します


落款は月之輪湧泉造と釘彫り
清風与平の落款は絵の中に溶け込ませたように清風画とあります
与平の独特の手法です


月之輪


湧泉造


右から清風画

2004年2月16日月曜日

国風展でのこと

盆栽界の最大イベント、国風盆栽展が昨日で終了しました

さて、その4日目(2月11日)の午前中
上野グリーンクラブ向かいの東京屋弥生会館の駐車場でのこと

背後のシャッター音に気がついて振り向くと、野球帽にサングラス、おまけにマスク姿の体格のいいお兄さん
ん、ん、んーッ???

ヤバイ、強ソーッ!
(内心ややビビリぎみでした)



昨夜は東京弥生会館の大広間で行われた特別オークションでセリ人を務め
そのあと、広小路近辺を深夜までうろついていたので、まだボケボケのお疲れ

私の不審そうな渋い顔を見てください
後ろ姿は小品盆栽の湘風園の小宮さんです

そのうちサングラスにマスクのお兄さんが大声で笑い出し「おじさんッ、おじさんーッ」
その声を聞いて「あッ、またいっぱい食っちゃったッ」と思いました

そのお兄さんは、知り合いの歯科医の先生です、してやったりの嬉しそうな笑い
「せんせーいッ、ひどいよーッ」

先生はいつも変装してるので驚かされれいますが
こっちは変装の仕様がない!



というわけでここでにっこり、はいポーズ

先生は皐月盆栽の愛好者で、昨年の内閣総理大臣賞の受賞者です
その方が今回国風展に初挑戦の初入選

先生、おめでとうございます
あの黒松の中品、抜群でした、よかったー!

でも今度は準備万端整えて、一発逆転、復讐のドッキリさんを企んでいる私です
先生、覚悟しておいてー!

2004年2月14日土曜日

珍・佐野大助鉢

珍しく大きなサイズの大助鉢に出会いました
間口は16cmで奥行きも14cmあります

国風展などに出品される、樹高15cmから20cmくらいの小品盆栽を入れるのにピッタリのサイズです
大助の鉢は10cm以下の作品が多く、これほど大きなものは稀です

小鉢のサイズは、その作家の好みと生きた時代の盆栽の流行の影響を色濃く反映していて
大助の時代の小品盆栽の主流は今よりもやや小さい目だったので、作品の多くはそれに比例したサイズです

例えば、現役の鉢作家の月香の作品をサイズの面から考証してみると
後期になるほど大きめの作品に挑戦しています

やはり時代の要請ともいえるものが作家を動かしているのでしょう


佐野大助作 五彩絵付楕円樹盆(ごさいえつけだえんじゅぼん)

大助中期の作品
前後に大きく額を切り渋い山水画を描いています

基調になる瑠璃釉薬は大助作品の代表的なもので
深い輝きのある発色で、品格があります

全体の作風は「東福寺」の影響が強く感じられます
胴の線、足の形、奥行き、間口と深みのバランスなどに色濃くそれが見られます

この鉢の最も優れた特徴は、大助作品としては珍しく間口16cmの寸法があることです
大助作品は大きくとも10cm前後のものが多く、このサイズは実用名鉢としての付加価値も備わっています


渋い色調の山水画


側面をのぞく角度より


奥行きもたっぷりあります


足は二段切り足、東福寺にもこの形の足が多く見られます


絵付け部分の拡大図
写実風の筆のタッチ、力がこもっています


船上の主従、会話が聞こえてくるような雰囲気です
大助の描く人物は生きいきとしていますね

土払い品500鉢

10日ほど前に隣市の某愛好家さんから土払い(どばらい)のお話しがあって引きうけることにしました。盆栽界で土払いというと、盆栽や鉢などすべての持ち物の売買のことをいいます。 プロでもアマチュアであっても、生き物(盆栽)の後継者がいない場合は売り払うか、さもなくば枯らすことになります...